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東京地方裁判所 平成2年(ワ)70051号 判決 1993年2月22日

原告 有限会社 高徳商事

右代表者代表取締役 高田徳郎

右訴訟代理人弁護士 間部俊明

同 小柳憲治郎

被告 株式会社 三菱銀行

右代表者代表取締役 伊夫伎一雄

右訴訟代理人弁護士 江尻隆

右訴訟復代理人弁護士 羽田野宣彦

同 大貫裕仁

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一、請求

一、別紙記載の信用状付外国向為替手形につき、原告の被告に対する外国為替取引約定書Ⅱ外国向為替手形取引約定第一五条第二項一号、同第二二条に基づく買戻債務内金四三万七三四・九六米ドルの存在しないことを確認する。

二、被告は原告に対し、金七〇〇〇万円及びこれに対する平成二年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二、事案の概要

本件は、原告が被告に対し、別紙記載の手形の買戻債務はないと主張して民事調停中に支払った七〇〇〇万円を不当利得として返還請求するとともに、その残額である四三万七三四・九六米ドルの買戻債務の不存在の確認を求めた事案である。

一、争いのない事実

1. 原告は、プラスチック原材料の輸出を業とする有限会社であり、被告は為替取引等の銀行取引を目的とする株式会社である。

原告は被告に対し、昭和六〇年二月二一日、銀行取引約定書及び外国為替取引約定書(乙第一及び二号証)を差し入れ、その各条項を確約した。

2. 被告は、昭和六一年一二月二九日、原告から別紙記載の信用状付外国向為替手形(以下「本件手形」という。)を、当時の為替レート(一米ドル一五八円七四銭)に基づいて換算した金一億四四七七万八八〇円で買い取った。

3. 被告は、本件手形に付された信用状(以下「本件信用状」という。)上買取銀行に指定されていた株式会社三井銀行(現商号はさくら銀行、以下「三井銀行」という。)に対し、本件信用状及び船積書類等付属書類を交付した上、本件手形の再買取りを申し入れたが、昭和六二年一月九日、三井銀行は再買取りを拒絶し、右一件書類を被告に返還した。

三井銀行は、本件信用状発行銀行であるインド銀行に対し、右一件書類を送付しておらず、本件手形につき信用状発行銀行による支払拒絶の事実はない。

4. 三井銀行が本件手形の再買取りを拒絶したので、被告は原告に対し、前記外国為替取引約定書(右取引約定書のうち、Ⅱ外国向為替手形取引約定(以下「本件約定」という。))の第一五条第二項一号及び第二二条に基づき、本件手形の買戻しを請求した。

第一五条(買戻債務)

② 外国向為替手形の買取を受けた後、次の各号の事由が一つでも生じた場合には、当該各号に記載する外国向為替手形について、貴行(本件被告を指す。)の請求によって手形面記載の金額の買戻債務を負担し、直ちに弁済します。なお、信用状条件により貴行(本件被告を指す。)が引受人または支払人となっている外国向為替手形についても、同様とします。

1  外国向為替手形の取立、再買取が拒絶された場合には、その外国向為替手形。

第二二条(第三者名義の外国向為替手形の買取)

私(本件原告を指す。)が、第三者名義の外国向為替手形の買取を貴行に私(本件原告を指す。)名義で依頼した場合にも、すべて私(本件原告を指す。)の外国向為替手形と同様にこの約定が適用されるものとします。この場合には、外国向為替手形及び付属書類における名義人の署名または印影は私が確認し、偽造、変造、盗用等の事故があってもこれによって生じた損害は私(本件原告を指す。)の負担とします。

5. 原告は、昭和六三年一一月八日、被告を相手方として本件手形の買戻債務の不存在の確認を求める民事調停を申立て、右調停手続中の平成二年二月一日、被告に対し七〇〇〇万円を支払った。

6. 右同日の為替レート(一米ドル一四五円四五銭)によると、七〇〇〇万円は四八万一二六五・〇四米ドルであり、被告はこれを本件手形の買戻債務の元本に充当する扱いをし、現在、残額四三万七三四・九六米ドルについて買戻しを請求している。

7. なお、原、被告間の民事調停は、平成二年二月二〇日、不調により終了した。

二、争点

争点は、原告の被告に対する本件手形の買戻債務の存否である。

1. 原告の主張

(一)  主位的主張

(1) 本件約定第一五条二項一号の限定解釈

本件約定第一五条二項一号の「外国向為替手形の取立、再買取が拒絶された場合」とは、信用状条件と船積書類との間に不一致があったため、再買取りをして信用状発行銀行に呈示しても不一致を理由に支払拒絶されることが明白な場合等信用状発行銀行による支払拒絶に準ずる場合に限定して解釈すべきである。本件において右のような事情は存在しない。

(2) 本件約定第一五条二項一号の不適用

本件には以下のとおりの事情があるから、本件約定第一五条二項一号は適用されないというべきである。

① 原告と被告との関係

原告は、被告を主力銀行(メインバンク)として選び、昭和六〇年二月二一日、被告との間に銀行取引約定書及び外国為替取引約定書を取り交わし、以来継続的取引関係にあったものである。

そして、原告は外国為替取引に精通せず、海外情報網を有しない中小企業にすぎないのであるから、原告と被告との間には、一方において被告が原告との間の継続的取引から生ずる利益を享受し、他方において原告は被告から金融の便宜を得るにとどまらず、銀行が有する金融取引の知識経験や情報の提供を受けるという信頼関係を前提とした相互依存的な継続的取引関係がある。

② 被告の契約上の注意義務

被告は、原告から本件手形を買い取ったことにより、売買契約の買主としての地位とともに、取立委任契約の受任者としての地位にも立つのであり、右取立委任契約の受任者として、原告に対し善管注意義務を負う。

そして、原、被告間には、①項のとおり信頼関係を前提とした相互依存的な継続的取引関係があり、しかも、本件で原告は、本件買取りに際し、信用状の受益者の委任を受けて第三者振出名義の手形を銀行に買い取ってもらうことは初めてであったこと、買取代金が多額であり、信用状の条件が複雑であること、受益者である株式会社サンパール(以下「サンパール」という。)とは初めての取引であること等の不安から、被告に対し買取前に事前に相談し、またいわゆる「ケーブル・ネゴ(仲介銀行の側から信用状条件と呈示された書類の不一致(いわゆる「デイスクレ」)を列挙して電信手段により発行銀行に連絡し、買取りの可否を照会し、発行銀行から買取りを承諾する旨の回答を入手したうえで買い取ること)」にしてはどうかと申し出たという経緯があったのであるから、これらの事情を考慮すると、被告には原告から事前に本件手形買取りの相談を持ちかけられたいわば取立委任契約締結の準備段階から、原告に対し受任者としての高度な善管注意義務を負っていたものである。

右善管注意義務に基づいて被告が原告に対して負担していた具体的義務は次のとおりである。

(a) 調査義務

本件手形はサンパールの振出名義であり、原告は同社から委任を受けて自己の取引銀行である被告に本件手形の買取りを依頼したものである。

このような場合には、振出名義人であるサンパール自身が自己の取引銀行に対して信用がない等問題のある場合が少なくないのであるから、被告は原告に対し、サンパールの取引銀行に同社の発行した委任状の署名照合を求めその真正を確認するとともに、同社の信用力や本件手形の取引の実態を調査確認する義務がある。

(b) 損害回避義務

(a)の調査により本件手形の安全性が確認できるまでの間、原告に対し、サンパールに代金を交付せず手元に留保するように指示する等して、不測の損害を防止するために必要な措置を講ずる義務がある。

(c) 取立義務

本件では信用状条件と船積書類との間に不一致はなく、信用状発行銀行であるインド銀行は、買取指定銀行である三井銀行に対し、一件書類を送付するように求めていたのであるから、たとえ三井銀行が本件手形の再買取りを拒絶しても、被告としては、三井銀行に対し再買取りをするように説得するか、あるいは、自らインド銀行に取立てに出すかして回収を図る義務がある。

③ 被告は②項(a)ないし(c)の各義務にいずれも違反した。

④ このような場合、被告を免責させ、顧客たる原告に損害を転嫁させる本件約定第一五条二項一号の規定は適用を否定されるべきである。

(二)  予備的主張(相殺)

① 被告は、(一)のとおり、原告との間の信頼関係を前提とする相互依存的な継続的取引関係を背景に取立委任契約の受任者として負担する善管注意義務に基づく(a)ないし(c)の各義務に違反し、その結果、本来は信用状発行銀行であるインド銀行から回収すべき本件手形の代金を回収できなかったのであるから、債務不履行に基づき、原告に対し、原告の被告に対する買戻債権額と同額の損害を賠償すべきである。

② 原告は被告に対し、平成二年一一月三〇日野第五回口頭弁論期日において、右債務不履行に基づく九一万二〇〇〇米ドルの損害賠償請求権をもって被告の原告に対する九一万二〇〇〇米ドルの本件手形買戻請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をした(争いのない事実)。

③ また、民事調停手続中に原告が被告に支払った七〇〇〇万円(同日の為替レートによると四八万一二六五・〇四米ドル)が本件手形の買戻債務の一部弁済であると扱われる場合に備え、原告は被告に対し、平成二年一一月三〇日の第五回口頭弁論期日において、①の債務不履行に基づく損害賠償額九一万二〇〇〇米ドルから四八万一二六五・〇四米ドル(原告の過失相殺により原告が負担すべき額)を差し引いたその余の四三万七三四・九六米ドルの損害賠償請求権をもって、本訴手形買戻債権四三万七三四・九六米ドルと対当額で相殺する旨の意思表示をした(争いのない事実)。

(三)  不当利得返還請求権について

民事調停手続中に原告が被告に支払った七〇〇〇万円は、原告の被告に対する本件手形の買戻債務の存在を認めたものではなく、調停委員の勧めにより和解成立を期待して支払ったものであるところ、調停は不成立により終了したから、被告は七〇〇〇万円を法律上の原因なくして利得しているものである。

2. 被告の主張(原告の主張に対する答弁)

(一)  原告の主位的主張について

(1) 本件約定第一五条二項一号の限定解釈の主張について

外国向為替手形の買取りの制度は、買戻債務を前提として銀行が買取依頼人に対して行う与信行為であり、本件約定第一五条第二項に定める買戻請求の発生原因に共通するのは、第四号に示されているように外国為替手形について債権保全を必要とする相当の事由が生じた場合であり、第一ないし三号はその例示である。したがって、原告の主張のように限定的に解する根拠はない。

なお、本件では、信用状上の買取指定銀行である三井銀行が再買取りを拒絶したことにより、被告にとって信用状発行銀行による補償は拒絶されたこととなるので、債権保全の必要性が生じたものである。

(2) 本件約定第一五条二項一号の不適用の主張について

本件には以下に述べるとおり、原告の主張するような事情はなく、本件約定第一五条二項一号の適用を否定すべき理由は全くない。

① 原告と被告との関係について

原告は、被告にとって数多くの取引先と同等の地位にある一企業にすぎず、特別な相互的依存関係があったものではな

い。原告が当時被告を主力銀行としていたとしても、主力銀行が特定の企業を無限定に優遇することは許されず、客観的に合理化しうる取引原則が適用になるにすぎない。また、原告は、小規模とはいえ、輸出を主業務とする貿易業者であるから、通常の企業より外国為替取引に関する知識経験を有するものである。

② 被告の契約上の義務について

本件についての被告の義務は、原、被告間で交わされた本件約定に基づいて論じられるべきものである。原告が当時被告を主力銀行として取引をしていたとしても、そのことは被告の義務をなんら加重するものではない。

本件手形の買取りに際し、原告から被告に対し事前に打診のあったことは認めるが、原告から被告に対し原告主張の取引に関する不安が表明されたことはなく、原告はかえって被告を本件手形の買取りに誘引するため、サンパールの信用を強調するような言動を示していたのである。また、原告から買取前にケーブル・ネゴの申し出があったことはない。

(a) 調査義務について

外国向為替手形の買取りの制度は、買戻債務を前提として銀行が買取依頼人に対して行う与信行為であり、買取銀行たる被告としては直接の取引相手である買取依頼人の原告の信用を確認すれば足りるのである。

原告にとっての委任者の立場にあるサンパールの信用調査等は原告自らが行うべきであり、被告の費用と負担において行うべしとする原告の主張は採用できない。

(b) 損害回避義務について

被告は、原告とサンパールとの委任関係については知りえないし、これに干渉することもできないのであるから、かかる義務は認められない。サンパールの信用を含め、自ら成立させた取引関係を前提に合理的な危険回避を図るのは、原告自身の責任においてなすべきことである。

(c) 取立義務について

三井銀行は買取指定銀行であっても確認銀行ではなく、したがって買取義務を負わないので、被告は三井銀行に対し買取りを求める権利を有しない。また、被告は買取指定銀行ではないので、直接インド銀行から代金を回収する権利を有しない。

被告は、買取指定銀行が再買取りをすることを前提条件として、本件手形を買い取ったものであり、指定銀行が再買取りをしなければ、再買取拒絶の理由如何を問わず、原告に対し買戻請求権を行使するほかはない。

(二)  原告の予備的主張(相殺)について

(一)(2)のとおりであり、被告は原告主張の各義務を負担するものではないから、何らの債務不履行もなく、原告主張の自働債権は存在しない。

(三)  不当利得返還請求権について

原告から被告に対する七〇〇〇万円の支払については、和解の成立が条件となっていたものではなく、少なくともこの限度において原告が被告に対し買戻義務が存在することを認めたものである。

第三、争点に対する判断

一、本件手形の買取りから買戻請求までの事実経過

<証拠>によると、次のとおり認められる。

1. 原告代表者の高田徳郎(以下「高田」という。)は、昭和六一年一二月中旬、原告の設立当初から通関業務を委託するなどして付き合いのあった海外通商株式会社(以下「海外通商」という。)の山本治郎社長(以下「山本社長」という。)から、本件信用状に基づく輸出代金を、原告が原告の取引銀行に本件信用状の受益者振出の本件手形を買取ってもらう方法により回収することを依頼された。山本社長は同月二四、五日ころには本件信用状の受益者兼輸出者であるサンパールの輸出業務を担当しているという信栄商会の信太顕栄社長(以下「信太社長」という。)をも同道し、本件信用状の写しを提示して、信栄商会は海外通商の長年の取引先であり、サンパールは浄水器を制作し、海外輸出経験もある技術もしっかりした会社であると説明し、熱心に頼んだ。しかし、高田は金額が非常に大きく、また委任状付で第三者振出名義の信用状付手形の買取りを依頼した経験がなかったことなどから、同月二六日、被告の横浜支店川崎隆宣課長(以下「川崎課長」という。)に対し、本件信用状の写しを持参して、本件信用状に基づく手形の買取りについて相談した。高田は川崎課長に対し、本件信用状が真正なものかどうか、金額が大きく、信用状条件が複雑で、しかも第三者振出名義の手形を委任状付で買取り依頼することになるがこのようなことが可能かどうか検討を依頼した。その際、高田は川崎課長に対し、本件信用状の受益者サンパールについては、海外通商の山本社長から、浄水器を製作し、海外輸出経験もある技術もしっかりした会社であると説明を受けたこと、海外通商は原告の長年の取引先で、山本社長とは数年来親しくしており、真面目な男であることを説明した。川崎課長は、本件信用状条件を満たす書類が具備されれば、被告として原告からの買取りは可能であると回答し、その際にはサンパールの委任状及び印鑑証明書が必要であると説明した。

高田が山本社長に対し被告の川崎課長から肯定的な回答を得たことを伝えると、同月二八日には、サンパールの三輪社長夫人及び青木常務取締役、信太社長、検査証明書に署名することになっているリム・ホン・ウイー、山本社長及び海外通商の社員の宮川外一名が原告事務所に集合し、高田は本件信用状の原本と、船荷証券を除く付属書類を受け取った。なお、原告は手数料として、本件手形金額の二・五パーセントを取得する約束であった。

高田は同月二九日の朝、本件手形及びその付属書類一式を被告に提出した。高田はその際被告の担当者の矢島に対し、ケーブル・ネゴにしてくれないかと言ってみた。もっとも、高田は、ケーブル・ネゴの意味をよく知らず、矢島からケーブル・ネゴはデイスクレ(信用状条件と呈示された書類との不一致)が存在しない限りしないものであるとの説明を受け、その時点でデイスクレは発見されていなかったので、高田もそれ以上の要請はしなかった。原告事務所には同日、サンパールの青木常務取締役、信栄商会の信太社長、海外通商の山本社長が被告からの連絡を待って待機していたが、同日午後三時直前ころ、被告から本件手形を買取り、代金の入金を完了したとの連絡があった。しかし、高田は入金後直ちに引き出すことには不安を感じ、待機していた青木常務取締役らに対しては後で何があるか判らないから危険防止のために一日待って欲しいと説明して、帰ってもらった。翌三〇日、青木常務取締役から送金については信太社長の指示に従ってほしいとの連絡があり、同日中に信太社長の持参したメモに基づき、エス・イー・インターナショナル株式会社に七一五三万四六六円、サンパールに四五〇〇万円を振込送金し、二〇〇〇万円を信栄商会宛て交付した。

2. 被告は、同日、本件信用状上買取銀行に指定されている三井銀行に再買取りを依頼して、一件書類を送付した。昭和六二年一月五日、三井銀行から原産地証明書の積込港の記載についてデイスクレがあるとの照会があり、被告が原告にその旨連絡したところ、原告はサンパールを通じて書類の訂正を行い、右のデイスクレは解消された。

しかし、同月九日になって、被告は三井銀行本店から、本件信用状上三井銀行名古屋支店が買取指定銀行とされているが、インド銀行シンガポール支店との間ではコルレス契約を締結していないし、またインド銀行シンガポール支店から検査証明書の署名者に疑義があるとのテレックスが入ってきている(乙第一三号証の一)等の事情により、本件手形の再買取りには応じられないとの電話連絡を受けた。川崎課長は原告事務所を尋ね、支払いを得られない可能性が高いことを告げた。その場には山本社長及び信太社長も同席しており、信太社長はサンパールが海外出張中で実態は分からないが、自分の方で払い戻しをすると申し出た。

この間インド銀行シンガポール支店から三井銀行に書類上重大なデイスクレがあるかどうか確認の上買取りたいので書類を送付するように依頼があった(乙第一三号証の二)が、三井銀行は同月九日、信用状上の受益者とは取引関係になく、当行にはリストリクト(買取りの授権)されず、当行としては関係書類を被告に返却する予定であると伝えた(乙第一三号証の三)。これに対し、インド銀行シンガポール支店は同月一二日、三井銀行に対し、三井銀行に買取りの意思のないことを了解したこと、しかし本件信用状は三井銀行にリストリクト(買取りの授権)されたままであることを通知するとともに、同月九日付でサンパールから本件信用状発行依頼人兼輸入者であるコンビに対して誤った船積みがされたことを認めるファクシミリが送られているとしてその写しを送付した。川崎課長は同月一二日中に、右ファクシミリを入手し、高田、青木常務取締役、信太社長にも示したが、右ファクシミリの送信当事者の立場にあるはずの青木常務取締役も信太社長も全く知らないと答えるのみであったので、川崎課長は本件取引について疑義を抱くようになった。三井銀行は、同日、本件手形の再買取りを拒絶して一件書類を被告に返却した。そして、インド銀行シンガポール支店の同日付けの通知に対して、三井銀行としては当行を買取銀行として指定されたことは当行が買取りを引き受けることを意味せず、当行に買取りが限定されているわけではないとの見解を通知した(甲第四号証)。インド銀行シンガポール支店は、これを受けて買取銀行の指定は三井銀行が本件信用状に基づく書類の買取りを引き受けるものではないことに同意し、三井銀行の買い取らない権利裁量を認めるが、信用状上の買取り指定条項が削除されない限り買取指定は存続すること、三井銀行が本件信用状に基づく書類を買い取らないならば、書類はインド銀行シンガポール支店宛てに精査・買取り・支払のために送付されなければならないこと、しかし、三井銀行以外の銀行による買取りの場合には信用状条件を満たさないことを通知していた(甲第五号証)。

高田は同月一六日、川崎課長の勧めにより、信用状発行銀行又は受益者からの本件手形金の回収は困難と思われるため、輸出商品確保のために船積書類の海外発送を見合わせてほしい旨の輸出書類海外発送一時中止依頼書を被告に差し入れた。

そして、本件信用状の有効期限である昭和六二年一月二一日が経過した。

3. 高田は、資金の回収のため、信栄商会やサンパールに再三電話をしたが、サンパールの代表者との連絡が付かないので、昭和六二年三、四月ころから前後三度ほどサンパールの事務所を訪ねた。しかし、同所には棚橋専務取締役、三輪社長夫人とその娘の三名しかおらず、解決までもう少し待ってほしいと言われるだけで話はつかなかった。

後になって、高田が買取代金を送金したエス・イー・インターナショナルは信栄商会のいわゆるダミー会社であることが発覚したほか、昭和六三年になって、信栄商会及びサンパールが信用状取引を悪用した大規模な詐欺事件の容疑のもと家宅捜索を受けたことが新聞報道され、また、本件信用状の取引についても警察の捜査が行われた。

原告はサンパールに対し買取代金の返還を求める訴訟を提起し、右訴訟は原告勝訴に確定したが、そのころサンパールは倒産した。また、信太社長、青木常務取締役、棚橋専務取締役は行方不明の状態となってしまった。

二、本件約定第一五条二項一号の限定解釈の主張について

そこで、まず、同条同項一号に規定する「外国向為替手形の取立、再買取が拒絶された場合」の意義を検討する。

原告は、右意義につき、信用状条件と船積書類との間に不一致があり、再買取りをして信用状発行銀行に呈示しても不一致を理由に支払拒絶されることが明白な場合等信用状発行銀行による支払拒絶に準ずる場合に限定的に解すべきであると主張する。

しかしながら、そもそも手形の買取りは、銀行の買取依頼人に対する与信の一種であり、銀行において買い取った手形の回収又は再売買による対価の確保ができない恐れが生じた場合には、買取依頼人に当該手形を買い戻してもらうようにしておかなければ安心して手形の買取りに応ずることができない。

そこで買取依頼人との間に予めの約定により、このような手形の回収又は再売買による対価の確保ができない恐れが生じたときに銀行からの一方的請求により手形の再売買を成立させることを定めたのが本件約定第一五条の請求による外国向為替手形の買戻の制度である。このことは本件約定(乙第一号証)の規定の体裁からも明らかである。すなわち、本件約定には、手形の買取依頼人が請求により手形の買戻義務を負うのは、右の「外国向為替手形の取立、再買取が拒絶された場合」(本件約定第一五条二項一号)のほか、(1)「外国向為替手形の代わり金相当額の償還を請求された場合」(同条同項二号)、(2)「外国向為替手形の支払義務者による支払が行われたにもかかわらず、貴行における外国向為替手形の代わり金の回収が遅延し、もしくは不能となった場合」(同条同項三号)、(3)「右以外のときでも外国向為替手形について債権保全を必要とする相当の事由が生じた場合」(同条同項四号)と規定されている。右規定の体裁からしても、請求による外国向為替手形の買戻しは、当該手形についての債権保全を目的とする制度であり、右買戻義務は、本件約定第一五条二項四号に定める当該手形について債権保全を必要とする事由が生じた場合に発生し、同条同項一ないし三号の各事由はその例示にすぎないと見るのが相当である。したがって、右の「外国向為替手形の取立、再買取が拒絶された場合」の意義についても、当該手形についての債権保全の必要性ひいては買戻制度の趣旨から解釈すべきである。そこで、「外国向為替手形の取立、再買取が拒絶された場合」について検討するに、このような場合は、いかなる事由によるものであってもすべて手形の回収又は再売買による対価の確保ができない恐れが生じており、当該手形について債権保全が必要となる典型的な場合にほかならない。そうすると、これを原告主張のように限定的に解するべきでなく、字義どおり、事由の如何を問わず、取立て、再買取りが拒絶された一切の場合と解するのが相当である。

よって、原告の主張は失当である。

三、本件約定第一五条二項一号の不適用の主張について

1. 原告と被告との関係について

本件全証拠によっても、原告の主張する被告が原告に対し金融取引の知識経験や情報の提供を行うことを前提とするような特殊の信頼関係に基づく継続的取引関係を認めるに足りない。

もっとも、原告と被告とは、昭和六〇年二月二一日、銀行取引約定書及び外国為替取引約定書を取り交わし(争いのない事実)、以来本件手形の買取りまで、預金口座開設、約一〇回の貸付、第四回の信用状付輸出手形の買取り、月に約三回の信用状なしの輸出手形の取立て等の継続的な取引関係があり、原告は昭和六〇年二月に設立され、従業員は代表者夫婦二人のみという小さな貿易会社であり、設立当初から二年間は被告を主力銀行(メインバンク)としていたものである(証人川崎隆宣の証言、原告代表者尋問の結果)。しかしながら、原、被告の取引上の権利義務関係は両者間で取り交わされた銀行取引約定書及び外国為替取引約定書の規定に従って決定されるものであって、前認定の事実をもって、前記継続的取引関係を認める根拠と解することはできない。

2. 被告の契約上の注意義務について

(一)  本件手形買取りの法的性格

原、被告間の本件手形の取引が本件約定第三条六号本文に定義された「買取り」として行われたことは明らか(乙第一、第四、第一二号証、証人川崎隆宣、原告代表者)であり、原告は昭和六一年一二月二九日、被告に対し本件手形及び付属書類を交付し、その対価として本件手形金額を同日の為替レートである一米ドル一五八・七四円により日本円に換算した一億四四七七万八八〇円から郵便電信料一八七〇円を差し引いた一億四四七六万九〇一〇円の入金を受けたもの(乙第一二号証、証人川崎隆宣、原告代表者)で、その法的性格は売買契約と解され、被告は買い取った本件手形を自ら手形の当事者として三井銀行に対し再買取り依頼をしたものである。もっとも、本件手形及び付属書類の買取依頼は、原告及び本件手形振出名義人兼輸出者であるサンパールにとっては、輸出代金の取立てと、輸入者コンビに対して負担している運送書類等の引渡義務の履行のためのものであり、書類の不備その他の事故のない限り、再買取銀行、信用状発行銀行を経て本件手形が決済され付属書類が引き渡されることにより、サンパールとコンビとの輸出入取引の権利義務関係の履行が完了することは、被告との関係においても前提となっているというべきであり、運送書類等の引渡につき買取銀行は輸出者側の履行補助者の立場にあるとみることができることなどからすると、原、被告の関係においても委任的要素が全くないとはいえない。しかし、被告が原告に対し負担する具体的義務の内容は、本件信用状が準拠する(乙第一一号証の五)ところの「荷為替信用状に関する統一規則及び慣例一九八三年改定版(以下「信用状統一規則」という。)」及び本件約定の規定の定めに従って決定されるべきものであり、また前記のとおり買取りの法的性格が、基本的に売買契約であると解されるとともに、本件約定第一五条の規定に端的に示されているとおり当該手形の債権保全の必要が生じた場合における買取依頼人による買戻を前提とした買取銀行の買取依頼人に対する与信行為であることから決定されるべきものであって、原、被告との関係において委任的要素が否定できないとしても、右約定、規定及び取引の性質を無視して直ちに被告の原告に対する注意義務を導くことはできない。そこで、原告主張の具体的注意義務につき、さらに(三)において検討する。

(二)  本件手形買取りまでの経緯と被告の注意義務

なお、原告は、原告が本件手形の買取り前に被告に事前相談し、またケーブル・ネゴの依頼をしたといった事情が、被告の原告に対する高度な注意義務を発生させるとも主張しているので、この点についても付言する。

原告代表者は、当事者尋問において、受益者サンパールの信用に対する不安も含めて被告に相談したかのような供述もしているが、他方において、被告に対し山本社長という信頼できる人からサンパールがしっかりした会社である旨聞いていると話し(第一回二四、二五頁。第二回二項)、原告代表者自身山本社長の話は信頼していたし(第二回八八項)、本件の取引自体がもともと不安定なものであるとは思っておらず、むしろ、書類上のミスだけを心配していた(第一回九九頁)とも供述しており、これら原告代表者の供述全体、また、本件手形の買取りにつき被告は原告の相手方当事者であること、買取りはそもそも被告にとって原告に対する与信行為であり、被告として本件手形の買取りが可能かどうか、また買い取るとしてどのような手続が必要になるかといった事項については外国為替銀行としての専門的事項として顧客である原告の相談にも応じる立場にあるといえるが、被告は原告の外国為替取引に関し助言や経営判断をすべく委託を受けているものでもなく、原告の保護者的立場にあるわけでもないから、原告として本件手形の振出名義人であるサンパール、及びその依頼を受けたという海外通商の山本社長からの依頼を引き受けるべきかどうかといった事項についてまで相談を受ける立場にはないこと等を総合すると、原告が被告に本件手形の買取りについて事前相談したといっても、それはすでに原、被告間で取り交わされている本件約定の条項を前提に、被告が本件手形の買い取りに応じるかどうか、その場合の手続はどうなるかといった事項についてであったというべきであり、また、それ以上に被告が原告に対し本件手形について注意を促す義務があるとも認定できないし、被告が原告に対し受益者サンパールの信用を保証したというような事実も全く認められないのであって、結局、事前相談のあったことは被告の原告に対する高度の注意義務を発生させる根拠とみることはできない。

また、ケーブル・ネゴの申し出について、原告代表者は、信用状発行銀行が本件手形の支払いをすることを確認してほしいという趣旨でケーブル・ネゴの申し出をしたと供述しているが、ケーブル・ネゴとは仲介銀行の側から信用状条件と呈示された書類の不一致(デイスクレ)を列挙して電信手段により発行銀行に連絡し、買取りの可否を照会し、発行銀行から買取りを承諾する旨の回答を入手した上で買い取ることであるところ、買取り時点でデイスクレは発見されておらず、原告代表者は矢島からケーブル・ネゴはデイスクレのある場合に行うのであるとの説明を受けそのとおりと思ったとも供述しており、それ以上の要請をしたものではないことは前認定のとおりであり、ただ、漠然と発行銀行の支払いの確約を取ってほしいとの原告の真意を矢島に伝えたものとは認定できないのであって、ケーブル・ネゴの申し出をしたことは、被告の原告に対する注意義務を発生させる何らの根拠ともなりえない。

(三)  原告主張の具体的注意義務について

次に原告が主張する具体的義務の存否について判断する。

(1) 調査義務

本件約定(乙第一号証)によると、本件約定第二二条は、外国向為替手形及び付属書類における名義人の署名または印影は買取依頼人が確認し、偽造、変造、盗用等の事故があってもこれによって生じた損害は買取依頼人の負担とする旨規定していることが明らかである。また、前記のとおり、被告は本件手形買取りについて原告の相手方当事者として買主の立場にあり、手形の買取りは被告の原告に対する与信行為であるから、被告は原告のために本件信用状の受益者の信用を調査確認する立場にはなく、これは被告に対し本件手形の買取りを依頼する原告が自ら調査確認すべき事項ということができ、また被告は原告に対し受益者の信用を保証した事実もないのであるから、かかる義務を認める根拠は存在しない。

(2) 損害回避義務

被告は買主として、原告から本件手形を買取り、その対価を原告の預金口座に入金すれば足り、その対価を原告がどのように処分するかは被告の関知すべきことがらではない。この点については、(一)の意味において原、被告間に委任的要素があったとしても全く影響を受けない。原告がサンパールに対し直ちに対価を交付することによる危険は原告自らの判断で回避すべきことであって、被告が原告に対しかかる危険回避義務を負担する根拠は存在しない。

(3) 取立義務

① 本件信用状(乙第一一号証の五)によると、三井銀行名古屋支店が本件信用状に基づいて振り出された本件手形の買取銀行に指定されていることは明らかである。しかし、本件信用状が準拠する「信用状統一規則」によると、信用状発行銀行により信用状上買取銀行として授権された指定銀行は、別途その信用状に確認を加えない限り、買取りを行う権利を有するにとどまり、買取りを行う義務を負担するものではない(信用状統一規則一一条c項)。すなわち、指定された買取銀行は、信用状条件を充足する書類の呈示を受けた場合に、これを買い取ることもできるが買取りを拒絶することもできる。三井銀行名古屋支店は、本件信用状に確認を加えていないから、本件信用状の再買取りの義務を負担せず、したがって被告としても同支店に対し再買取りを請求する立場にないことは明らかである。さらに、前認定した事実経過によると、本件手形の取引はサンパール及び信栄商会が仕組んだ不確実なもので、被告から三井銀行に対し再買取りの申込みがあってからすでにその徴候(三井銀行名古屋支店とインド銀行シンガポール支店との間にコルレス契約がないこと、検査証明書の署名者についての疑義、サンパールの青木常務取締役も信栄商会の信太社長も知らないというサンパールからコンビに宛てた通知等)が現れていたとも窺えること、また、原告はインド銀行が一件書類の送付を求めていたというが、証拠(証人川崎隆宣、乙第六、一〇号証)によると、本件信用状上要求されている保険会社に対するサンパールの船積通知は信用状の記載と異なり書留航空郵便のそのもののコピーではなく、また右船積書類と送り状との間には船積地の記載に食い違いがあり、これらは実務上デイスクレとして指摘される可能性があることが認められる(信用状統一規則第一〇条a項b項、第一五条参照)から、インド銀行シンガポール支店が一件書類の送付を求めていたとしても点検の後デイスクレを理由として支払拒絶される可能性があるといえること、さらに信用状統一規則第一一条d項、第一六条a項によれば、信用状に指定された買取銀行が外観上信用状条件を充足する荷為替手形を買い取ったときには、信用状発行銀行は買取銀行に対しその出捐を補償する義務を負うことになっているが、現実の実務では、発行銀行の倒産、発行銀行所在国のカントリー・リスクのほか、発行銀行と買取銀行との間における信用状条件の解釈の相違、船積書類のミスタイプ等の言い掛かりなどの事由により、買取銀行が発行銀行からの補償を受けられないことが少なくないこと、等を総合すると、三井銀行の再買取拒絶は信用状制度の上の権利であるとともに、当該事案において不当な権利行使であったとみることもできない。そうすると、本件手形については、被告としても三井銀行に対し再買取りを説得し、あるいは誘引できるようなものではなかったということができる。

② また、前記のとおり、信用状発行銀行は、信用状条件を外観上充足する書類と引換えに買取りを行った指定銀行の出捐を埋め合わせることになっている(信用状統一規則第一一条d項、第一六条a項)から、信用状発行銀行による補償の要件は、指定銀行が、信用状条件を外観上充足する書類の呈示を受けて買取りを行うことである。そうすると、買取銀行として指定されていない被告は本件手形を買い取っても、信用状発行銀行に対する補償請求権を取得することはできない。したがって、被告を介して信用状発行銀行に信用状に基づく書類を送付して支払を求めるためには、三井銀行名古屋支店に再買取りをしてもらうか、そうでなければ被告による買取りの状態を解消した上で(すなわち買戻しをした上で)、取立委任契約を締結し、別途受益者のための単なる取立てとして信用状発行銀行に対し支払を求めるしかないこととなる。

③ したがって、原告の主張するような取立ては信用状制度の中で被告の採りうる方法ではなく、かかる行為を被告の義務とすることはできない。

3. 以上のとおりであり、原告の主張はいずれも理由がなく、本件事案においては本件約定第一五条二項一号の適用があるというべきである。

四、原告の予備的主張(相殺)について

前記のとおり原告主張の被告の注意義務はいずれも認められないから、右注意義務違反に基づく債務不履行請求権も発生せず、原告主張の自働債権は存在しない。よって、相殺の主張は理由がない。

五、不当利得返還請求権について

前認定のとおり、原告の被告に対する七〇〇〇万円の支払の時点において、原告は被告に対し九一万二〇〇〇米ドルの買戻債務を負担していたことは明らかである。また、証拠(乙第三号証の一ないし三)によると、民事調停中の原告の被告に対する七〇〇〇万円の支払に際し、原告は被告に対して平成元年六月二八日付申請書を差し入れており、右申請書には原、被告間の本件手形の買戻債務不存在確認請求調停事件について原告が七〇〇〇万円の限度で支払義務のあることを認め同額を弁済する旨、右七〇〇〇万円は弁済日の為替レートにより米ドルに換算し買戻債務九一万二〇〇〇米ドルの元本の支払に充当される旨、さらに、原告は九一万二〇〇〇米ドルの内右七〇〇〇万円に相当する部分以外の債務の存在については争う旨が明確に記載されていること、被告は原告の右申請書を受けて、同年七月五日付承諾書を差し入れており、右承諾書には、原告の弁済にかかる金七〇〇〇万円は弁済日の為替レートにより換算の上被告の原告に対する買戻請求権九一万二〇〇〇米ドルの元本の支払に充当する旨記載されていることが認められる。右事実を総合すると、原告の被告に対する七〇〇〇万円の支払は少なくとも右金額の限度において買戻債務が存在することを原、被告とも認め、合意の上買戻債務の元本の支払に充当したことは、優にこれを認めることができる。もっとも、原告代表者は代表者尋問において、買戻債務を認めるつもりはなく、和解による円満な解決の糸口を掴むために調停委員の勧めに従って支払ったものである旨供述しているが、前掲各証拠に照らしたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

よって、原告の被告に対する七〇〇〇万円の支払は法律上の原因を有するものであって、何ら不当利得とならない。

六、以上のとおりであって、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 畠山稔 裁判官前田英子は都合により署名捺印することができない。裁判長裁判官 星野雅紀)

<以下省略>

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